2026-09-0921:10

光岳の電光

いつだったか晩夏の山の午後

南ア光岳で テント設営していると 強烈な雷鳴が轟いた。

それから小一時間ほど後,1人の登山者が切羽詰まった様子で

『同行が落雷を受け動けない』 との救援要請だった。 

小屋の管理人と2人で救援に向かう…40分程で落雷現場に横たわる登山者に出会った。至近に落雷し,電気ショックで麻痺してるようだ。  腕は動くのでしがみついで貰い,背負って小屋までの40分程を歩く。

ザックの重みとは訳が違い,渾身の力でやっと歩く,苦しくとも降ろすと再び立ち上がれる気がしない。背中でそれが判るらしく,届く枝があると手を伸ばし、少しでも抜重する気遣いをする。負われる身の誠に触れ,歩くのは私だが 互いの心血の限りを尽くした40分。

無事に小屋に収容したあと,心底の脱力感でテントに倒れ込んだ。レトルトの夕食も摂る気になれない程の限界‥ 仮に小屋が近くなければテントで介抱とビバークになったろう‥

夜になって 麻痺から回復した登山者がテントを訪ねてきた‥背の高い彼に先ずは体重を訊くと63㌔だと言う‥ 身長がら言えば痩せ形だから背負えたものの,標準体型で70㌔だったら歩き通せなかったろう。

彼が言う‥ 幸い際どく直撃を免れ一命を取り留めた 友人が急を告げに行き,私はこうして貴方に助けられた。お見受けする貴方は単独の様子‥

私があそこで独りだったらと思ってしまう  こうして貴方との稀有な縁で助けられたからこそ,貴方の山の無事を心から祈りたい 単独は避けた方がいい‥

それはあの雷を受けての心根だったろうと想う。  

‥その方とは 無論それきりで互いに名前も知らない 背負って極限を歩くという濃密な関係性だったのに。。仮に街ですれ違っても分からない。 山はそういう所であり人道的な基準が違う,人の苦難を自分のこととするしか選択肢がないから,敢えて善行をしたという意識もない。 それだけに冷静さを欠き二重遭難という怖れも多分にある。

‥ 単独はやめたほうがいい,と言われたが,それからもずっとそうだった 固執するつもりはなかったが,私にとって山はそういう場だった。

カテゴリー: all | 執筆者: Toshio Kazama