8月31日 朝4時前、雨がテントのフライを叩く音で目が覚める。あちゃー雨だあ。別海以来の雨。ゆうべのあのすごい星空はなんだったの。と文句言ってもはじまらない。断続的に降る雨のなかカッパ着てから晴れ間をみて表に出てさっさと茶漬けを食って携帯ラジオの天気予報を聞く。ここはケータイのつながりが悪い。天気予報によるとなんだか青森と秋田が雨であとは全部猛暑、ということらしいなんのこっちゃ。雨か猛暑かどっちか選べって、いうことじゃないの。
はて、テントを畳んだものかこのまま停滞を決意すべきかまよっていると、自転車野郎がさっさとテントをたたみはじめ、今日は平泉に向かうというオーストリア人たちも撤収を始めた。こうなると自然とこちらも出発の決意をしてしまうな。どうもサルの仲間は集団行動をしたがるわい。6時頃になると雨の小やみになったところで向かい側にテントをはった650cc嬢も起きてきた。「おはよう、雨だねえ」というと「雨具をバイクにつけたままねてしまったので出るにでられなくて、トイレにもいけなくて」と笑う。そうなんだよね。キャンプをはっても雨具はかならず手近なところにおいておかないといけない。
俺の雨具はオークションで安物のフード欠品を3000円ぐらいで買ったものだから、キャンプの時は困る。フードがないと不便なのだわ。まあ、折りたたみ傘でもあればいいんだが、持ってないから外にでるとアタマが濡れてしまう。
ま、しかたがない、のんびり撤収して、おわりかけると雨脚がぐっと強まった。またしても「テントを畳み始めると雨が降る」「あなたがテントを畳むと雨は強くなる」の法則がしっかり働いておるわ。女性ライダーは「きのうから何もたべてないからもう限界」と雨のなかを大きいバイクのたのもしい爆音を響かせ雨の中を飛び出していった。4kmはなれたあたりに食堂があったし、なんか他の店もあったようだから大丈夫だろうて。
さて、わしも行くか。サイドバッグをつんで箱をのせてテープをしめてテントを結びつけ、さらにタープとグラウンドシート、マット、椅子をゴムヒモで止める。大きいバイクの大型サイドバッグとちがって小さいからどうしても格好良くならないね。次回はサイドバッグをもうすこし大きくしたいもんだが、はてそんなのあるかな。雑誌にはBMWなみのトランクを2つつけたニューセローを神奈川のYSPが売っていたが、ありゃやりすぎだっぺ。セローがなんか別のバイクになっちまうし、倒れたら自分の身体よりジュラルミンケースの傷が気になるにちがいない。
ナビを「八幡平」にセットして出発。雨はなんだかどんどんひどくなる。メットのガードを版部開けて時速10kmから20kmで坂をあがる。おいおいどんどん坂が急になっていくぜ。ここからはもう下りだとおもっていたんだが、地図をよくチェックしてなかった。まあ、これだけの雨ならこの時間、対向車もまずいないだろうが。いけね、うっかりオーバーシューズを最後に履いてしまったから雨具を通じて雨が靴の中にはいってきちゃうよ。ようやく公衆便所をみつけて軒先ではきなおし。アホカイナ。というかこういうスゴイ雨でオーバーシューズ履くのはじめてだったわ。びしょぬれで鹿角へおりていく。目立つ十字路にコンビニがあった。コンビニ前の椅子に座ってお握りとパスタと牛乳で一休み。ちょっと落ち着く。
そういえば出発前に女性ライダーがケータイでみせてくれた秋田の雨雲はけっこう早く東に向かっていたっけ。もいちど自分のケータイで調べると間違いない。この場所ならあと2時間で晴れそうだ。しかし、こんなところに2時間もボーッとしていられないから自分が西へ向かえば1時間で、丁度八幡平のあたりで晴れる。そうおもうと元気が回復するな。
途中の道の駅なんとかで結構丁寧な説明があって、この道は古来、鹿角街道といわれた秋田から青森にでてくる羽州街道の支街道らしい。高速道路では行き交う旅人の古来の姿なんぞ浮かびはしないが、「鹿角古街道」となれば着物姿に菅笠の旅人達の姿がホーフツとされ、両脇のただの民家の建築にも目がいって「お、ほんとに街道沿いの屋作りだ」とそうおもうとタダの道もなんだかゆかしく思えるから楽しい。そして八幡平の峠の足湯に着くと同時に雲がサッと晴れて太陽がでてきた。すげー。ぴったり。ケータイの雨雲情報はまるで魚群探知機のような正確さじゃないの。もっと活用したらよかった。ケータイの電池が減るのをおそれ旅の間、聞き取りにくい、しかも簡単すぎて役に立たないことの多い天気予報を必死に聞いていた俺は時代遅れだ。
足湯につかりながら横手の友人に電話を掛ける。「どこにいるの?」「八幡平」「えーっ、まだめちゃ遠いじゃん」って、こっちは十和田からもう大分来たとおもってるんだが、秋田県はひろいからなあ。そう言われるとなんだかまだまだ遠いような気がしてきた。でもナビに横手といれると2時間ちょいで行くからね。八幡平でキャンプ張るより、一杯一緒に飲む方が断然魅力だから、気合いをいれて出発。無料足湯もなかなかよかった。
ただ店のわきのトイレに「お客様以外はつかわないで」なんて書いてあるのがちょっと興ざめだった。ま、俺は牛乳一本と煙草をかって「お客さん」になっといたけど、汚く使われて頭に来る掃除する側の気持ちはわかるけどね、でもこういう風に書くと「ケチくせえなあ」とせっかくの無料足湯で得られた好感が帳消しになる。おれなら「お店のお客様以外の方もご自由にお使いください」と書く。そうしたほうがみな気持ちよくキレイに使ってくれる、とおもうぜ。
八幡平の下りは長い。こういうワインディングロードってのはロードバイクのライダーなら大感激だろうな。こちらは「早い自転車」だから別段どうってことなし。それより峠をこえたとたんにものすごい積乱雲の大山脈がはるか山形のほうまでヒマラヤ大山脈のように空中に浮かんでいるのに仰天した。
高さ5,6000メートルの入道雲の大軍団。ふつー、夏の江ノ島の沖合あたりにある手の大入道雲がフランスデモのようにスクラムをくんですべての山の上にどっかり居座ってやがる。太陽もなんだか日本のじゃないようにブキミに黄色く、空も日本的な青空より色が濃い。こりゃ異国の太陽と青空だよ。こんなの初めて見た。これが日本全国をおおってる酷暑の正体にちがいない。北海道にいるあいだに本州は異国の太陽の支配下になっちまったんだあ。
田沢湖から角館方面へ。7月上旬にも通った道だ。あのときは北上してきたな。そういえば横手から角館には地図には目立たなく書いてあるが西側にフルーツラインだかいう素晴らしい地方道ができていたね。ナビの指示を無視してそちらを選ぶ。
太陽はインドのようだが、盆地の稲穂はもう黄金色の海だ。そのなかを快走して。「米どころ秋田」という実感がわく。この道はおすすめだがツーリングマップルにはまだのってないな。あ、今年のには載ってるかもしれないけど横手に抜けるには国道105号や県道11号よりよほどよい。東北は結構、こういう道がいいんだな。北海道以上に「国道は走らない」でいくのがツーリングのコツだわ。横手にストレートに到着。
旧友は年上なんだけどまだ現役でやってる。エライもんだ。おらもういくら銭もろても働く気はないもんな〜。元々の資質の違いだんべ。
そのおごりで酒飲んで地元の名物をたらふくごちそうになっちまった。そういや毎年一回、いや今年は二回もきているよ(^^;)。この町には年下の従兄弟もいるんだがいつもご無沙汰してしまうわ。あはは。タダ酒タダメシ、タダ洗濯機にありついて久しぶりに布団で寝て、豪雨と猛暑にたたられた一日から元気回復。
こちらのわずかな貢献は、表の水まきホースを取り替えただけ。もっともこれ、奥様にえらく喜ばれた。なに現役で仕事してたら家のことなんてできないのよね。これはなかなか家庭では理解して貰えないんだよな。男は辛いよ、なんである。
執筆者: Jun