2006年06月10日
スプレッドシートから始まるオンラインアプリシンドローム ─ FlexGo

Microsoft(以下MS)が大量のアップデーターを出してくるのは今や月例だが、これのための事前チェックや適合作業に忙殺された方もおありなのではないだろうか。今までにも書いてきたように、Windowsを使い続けることで必要になるコストは、決して有償のアップデートばかりではない。こうしたアップデーターのインストールや、そのインストールの影響、そして、それらにとられる人手と時間は、決して無視できるものではない。

そんな事を背景に… MSの新しいOffice “2007 MS Office System”の話題を聞いて、「まだ銭を出して付き合い続けなくてはいけないのか」とうんざりするのは、私だけだろうか。で、もしOfficeの利用をやめたとして、Wordファイルは、開いて読むだけならなんとかしてくれるアプリは少なくない。PowerPointには少々困るが、まぁ稀といえば稀。結局、一番困りそうなのがエクセルだ。VBなどで作り込んでしまったものはともかくとして、普段のワープロまでExcelでこなしてしまうユーザーが相当数いることは、経験から分かる。つまり、スプレッドシートはOfficeというパッケージの中でも「必須」の存在だということだ。

加速するGPL化とスプレッドシート

OSでもLinuxを導入している自治体などが出始めているが、オフィスソフト類でもGPL(General Public License)アプリの話が聞こえだした。それも、FlexGoへの布石として。

先ず、Open Office Orgが先陣を切っていたGPLの分野で、スプレッドシートの先行が始まった。Googleが6日にGoogle Spreadsheetsを公開し、オンラインでアプリを提供する方向の可能性を切り開いたのに続き、Socialtext社もWebベースのスプレッドシート“wikiCalc”の開発を発表した。これは、スプレッドシート「VisiCalc」の開発者Dan Bricklin氏との共同開発だそうで、そう聞くとなんだか「元祖スプレッドシート」みたいで、良さそうに感じられる。

MSも、2007 MS Office Systemではオンラインでの情報共有や共同作業の円滑化などをうたっている。XML化は確かにファイルの互換性やアプリ相互の連携機能を強化するものだ。ところで、もう一方のAppleはといえば、スプレッドシートもワープロもPagesで統合してしまった。このPages、日本語の縦書きに未対応だから、まだまだ日本では選択肢に上がりようがない。もっとも、一方でApple自体はAppleWorksを細々ながらも続けてはいる。どちらも半端なのは、資本提供をうけているMSへの「Officeくらいは」といった遠慮だろうか。大昔PCとシェアを競い合えたのは、Excelというスプレッドシートがあったればこそだったのだし…。或はひょっとすると、.Macのサービスにオンラインスプレッドシートなどがひょっこり出てくるのかも知れない。

いよいよ見えてきたFlexGo

GoogleやSocialtextの路線では、ネットワークインフラによるところが核になる。ローカルに持っていない以上、ユピキタス社会が完成しない当分の間は、困るシーンが出てくるだろうが、開発の時間的余裕とも見ることができる。GoogleやSocialtextには時間をかけて、しっかりしたものを完成させて欲しいように思う。

実は、こうした変化の狙いは、FlexGo化にある。FlexGoとは、電話料金のような“使った分だけ払う”ビジネスモデルだ。オンラインのアプリケーションが主流になったとしたら、管理運用責任者はアップデートの苦労から開放されるかも知れないけれど、これから使い方を覚えないといけない人は、払う料金に見合った結果を得られるようになるまでに、一体幾ら払わねばならないだろう。どんな高価なパッケージアプリよりも高いなんてことなら、洒落にもならない。

人間の本性から考えれば、FlexGoは所有するという欲の一種の達成を奪っているように錯覚される。実際には、今日のアプリケーションはユーザーに限定的な利用権を与えているだけで、譲渡しきっているわけではないから、FlexGoになったとしても実態は何ら変わらないのだが、所有することに馴染んでしまった世代では、利用権を時間買いする合理性がどこまで受け入れられるかという疑問が残る。経理上の理屈も整理しなおさないと、企業はアプリケーションを資産として計上できない(今現在資産として計上させていることにも、矛盾するアプリはある)だろう。トータルシステムとして課税対象なら、年額幾らの総契約額に課税するのだろうか。それとも、単契約が小額なら経費で落として良いことになるのだろうか。

FlexGoへの変化は予言されていたことであり、今、冒頭で述べたGoogle SpreadsheetsやwikiCalcは、まさにそうした移行が現実となって行くことを示唆している。この変化で、一番変わらねばならないのはユーザーだろうが、さて、日本のユーザーがついて行けるような変化であり得るだろうか。再び10年を失うことにならなければ良いのだが…。いずれにせよ、どうやら我々ユーザー側ではワークフローの変化が必須事項になりそうな予感がある。発展的な変化には老体にむち打ってついて行きたいところだ。例えば「今までファイルをメールなどでやり取りすることで完成させていた業務は、オンライン上のアプリで同時進行し、脇に開いたビデオチャットで相談する」といった具合の進行ができるようになって、確かに、業務全体に要する時間は同時進行する分だけ短縮されるのだろう。だがしかし ─ ビジョンは見えるのだけれど、どうも、その次のシーンとして連想するあれこれに、まだ、バラ色の未来を直感できるシーンが少ないと感じるのは、私だけだろうか。

余談 ─ それでも今の環境にしがみつきたい方へ

最後に、ちょっと外れるが、そうした明日のアプリを出そうとしている一方で、古いアプリを使い続けたい、或はそうしざるを得ないユーザーがいることはMSも承知しているようで、だからといってセキュリティアップデートサポートを終了するという計画が変わるわけではない。抜け目無く、XP Proと2000 Pro。Virtual PC 2004上でエミュレートし稼働させられるヴァーチャル環境“Windows Hypervisor”を売り込んでいるのだ。

仮想マシンで動くOSはNT Workstation 4.0(Service Pack 6以上)、Windows Me、98、98 SE、95、MS-DOS 6.22、IBMのOS/2 Warp Version 4、それに、XP Pro、XP Home、2000 Pro。さらには、公式サポートはないものの、Linuxも稼働できるらしいし、ひょっとしたらMac OS Xも、という噂だ。1台のPC上で複数のゲストOSが稼働できて、そのOS数はPCのスペック次第なんだそぉで、Windowsの上で幾つもの Windowsが動くという、何やらヘンな話。どうやら、古いものを使い続けさせることで他のOSへ完全移行されるのを妨げたいように見えなくもない。

ハードメーカーは、よりハイスペックのマシンが求められる変化で大歓迎なのだろうし、MSも、使い続けるユーザーあたり1.5〜2万円程が入ってくるから、タダで使い続けられた上に、止めたサポートが原因で起きるであろうセキュリティ問題で難癖つけられたりするよりはマシなのだろうが…。
by DIGIBEAR