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(   北鎌尾根   )

   北アルプスの槍、穂高連峰を南下すると、のっけから最難関、北鎌尾根で始まる。

槍ケ岳から一般ルートになり、大キレットの巨大なギャップを経て奥穂高に至り、厳しい岩陵を南西に伸ばして西穂高に達する。全行程は4日ほど、これだけの長い岩陵は他にはない。

   私はこの縦走を友人と共に目指したが、北鎌尾根というメインイベントが終わり、奥穂高で豪雨に襲われたことを自分への口実として下山した。本当は北鎌で終わった緊張感を、奥穂から西穂への濡れた岩陵を辿ることで再び奮い立たさねばならないのが嫌だったのだ。その時は大して惜しいとは思わなかったのだが、日が立つにつれて自分の不甲斐なさに腹が立つばかりだった。

   山は逃げない、という言葉がある、どういう時に使うかというと、たいてい失敗とか挫折して山を降りるとき、また来ればいいさ、という意味で使う、それが単なるまやかしであることは当の本人が一番よく知っている。こう呟いて帰るしかないのだ。しかし人生はそう長くはない、中年の下り坂の体力で山を見ると、それは膨張する銀河のように遠ざかっていく。

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