2019年08月09日 23時31分 | カテゴリー: 総合
ジムのゆくえ
みさおさんの飼い猫だったジムは30歳ぐらいと言うが、たぶん20歳の勘違いだったろう。
ジムという名はボクシングジムから貰ったことによる。
その際に屈強なオーナーがジムとの別れに泣いて幸せを託されたという。
その日から共に暮らした平穏な年月。。
みさおさんの死は突然に訪れ、ジムは独り残された。
暗い部屋にじっと佇むジム。私が訪れても人恋しさに拠ってくるでもなく、その姿は何かを悟るような風格を感じた。
老齢故の粗相が目立つようになったと言っていたが、たしかに土間にいつもその跡があった。無人になった家にジムを置くわけにいかず,甥御さんは仕方ない保健所に相談すると言う。
もしや万が一…あわよくば引き取って末期を見て貰えないだろうかと、ボクシングジムを探して見た。しかしとうに廃業されたのか見つからなかった。
私はと問われれば,農家育ちで家畜の悲哀を数知れず看過した身にペットは立場上無理である。
半ば諦めかけ、ジムに残された日を慈しむような気になった。
しかしみさおさんの意を汲んだ甥御さんは、高額ながら老いた猫の末期を引き受けてくれる業者を探し当てた。。
よかったなあジム。。翌朝の八時台に連れに来るというので、ジムにとってこの家の最後の晩になる8月8日の夕刻にお別れに行った。
ジムは一か所あけておいた網戸の所で、永年眺めてきた庭を向いて座っていた。差し出したコップの冷たい水を舐めるジム。その頭を撫ぜると以前なら嫌がったが大人しくしている。ジムとはこれが今生の別れだろう
「ジム、元気でなあ」そう想うと胸がつまった。ジムがまだ子猫の頃、ボクシングジムのオーナーもこうだったのかと思った。 翌日8月9日の午前11時ごろ、職場に甥御さんから「ジムを無事に連れ出し、残りの餌と共に引き渡しました」と電話があった。。
築100年の農家の最後の住民となったジムも去って、この家の長い歴史は閉じた。
もう開けることはない....もしもの折にと、みさおさんから預かっていた鍵を、しみじみ眺めた。