JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
山梨に越してきて物足りないのは果樹地帯なので水田が少ないことだ。 この時期になれば田植えの終わった田んぼにカエルの声が賑やかなことだろう。
日本の原風景といえば稲作であり水田なのだと思うが、そんな風物詩に飢えている。もう一つは海がないが、代わりに3000m級の山があるから諦めがつく。 神奈川の海は賑やかで、この写真のように田んぼの向こうが海のような所はなかった。 それは関東全般の海にあてはまり、テトラポットの海というイメージだ。
日本海側には棚田や草原のむこうが海みたいな所がいくらでもある。そんな海の田舎、海のふるさと、といった趣に山国育ちの私は魅了された。 この写真は数年前のちょうど今頃、丹後半島の海である。
この歳の5月末に母を亡くし、葬儀が一段落し、心理的にとりとめのない時期だった。私は海のホタルという情念的なイメージにとりつかれ、丹後の水田の日本海にきた。
やはり海岸にホタルは無理だろうかと思ったが、ここが気に入って車中泊にした。 波の音がかすかに聞こえるぐらいの静かな晩だったが、一匹のホタルが現れた。ホタルは何故かしばらく私の車に止まっていたが、いつの間にかいなくなった。
たった一匹、丹後の海際の水田に現れたホタル。
ふと、あのホタルは母ではなかったかと思った。普段そういうことを私は信じない。 ただこの時は、そうイメージしてみただけである。 そして そうしたかった時期だったといえる。
ホタルの、あの明滅する静謐な光は過去を回想させる、古くから死者の魂であるとも言われている。 それはそう信じているわけではなく、そんな思いを乗せやすいからではないだろうか。
。。といいながらしかし、丹後の海のホタルのことは、特別なものとして、今も私の胸のうちにある。
2011/6/
執筆者: kazama
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