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2018年05月19日 12時52分 | カテゴリー: カメラ

ある午後の美談

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5月の ある爽やかな午後の話でございます(芥川風に)

 平日休みの友人Yが 昼頃まで寝ているとインターホンがなった。

渋々ドアをあけると目つきの悪い〇〇勧誘員だった。要らないからとドアを締めようとすると男は尖った靴先の足を隙間に挟んで締めさせようとしない。
「来たからには只で帰れるわけがねえだろ、一か月でも取ってもらう」と凄む。
Yはかっとなって胸ぐらをつかみ、引っ張り込んだ。押し返されると思った男は意表をつかれ台所の辺りまで倒れこんだ。Yは男に馬乗りになり拳法の手口で襟口を締めあげた
「なめるな、名を言え」と言わせておいて「免許証見せろ、違ってたらどうなるか分かってんだろ」と念をいれた。
「この落とし前はお前が取ろうとした金を置いていけ」と財布を出させると、幾らもなかった。
勘弁してくれと言うので「素人だと思ってなめてんじゃねえぞ」と放す。
男は階段の途中の安全圏から「 覚えてやがれ 」といい残して去った。

 気になりながら翌日の勤務から帰ると、果たして三人の男が階段で待ち伏せしている。

「これはまずい」とその夜は近くにある実家に泊まり、出勤した。

それから数日、スクーターで偵察すると昼にも張り込んでいる、どうやら本物のチンピラらしい。彼らにもプライドがあってこのまま引き下がれない面子があるのだろう。
テレビドラマならここで果し合いになるのだろうがそう甘くはない。
 遅くまで会社に居るYに社長が気付いたので訳を言うと、彼の素行を知り尽くす社長は「ここで騒ぎを起こされてはこまる」という。
しばらくは実家から通い、ひそかにアパートを見に行くと必ずといっていいほど男の影があった。一応と思い警察に言うと名前を聞かれるので引き下がったが、このことのほとぼりが覚め、安全を見極めるのは非常に難しかったらしい。

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 いまのYにこういう時代があったことはとても想像がつかない。

大判カメラが好きな彼の被写体は桜の古木だとか富士山とか、典型的な名所だったりする

私などは他人と違うことを嗜好し偏屈を気どる。しかし彼はそんな私をも批判しない。
人生一度でいいから「お前なめてんのか」と凄んでみたいと言うとせせら笑うだけで相手にしない
目立ったクルマだとかファッションにも関心はなく、まったく自己顕示欲というものがない。他人と同じであることに抵抗感はまったくなく、むしろそのことが心地よいかのようだ。
 私もああならなければダメだと思うが、私よりずっと年下の彼の、この大人びたスタンスはどこから来るのだろう。
おそらく突っ張ってきた過去の反動だろうが、それを経て辿り着いた境地がとても羨ましい。

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執筆者: kazama

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