JOURNAL SKIN
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Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
検査の手法は文字通り目前で行われるので解りやすく説得力がある。
両目で見ているので悪い方の特定からはじまり、引き算の手法で要素を絞り込んでゆく。
眼底撮影のカメラがドイツのツアイスだったので、より検査の格式が高まる(笑)
いったいこの眼底カメラの値段はいくらするのだろう。双眼鏡でさえツアイスは国産一流のニコンやフジノンのおよそ5倍から10倍する。そのニコンでさえ一般市民(?)が買う感覚からいったら10倍という高価なものだ。 つまり庶民感覚のおよそ100倍といったバカみたいな価格の光学製品がツアイスというブランドである。 こんなものを信者は有難がって買うのだから酔狂な世界と言える。
このレンズは広角のディスタゴン50mmF4。1960年代の手抜きのない機械加工の手触りは指に痛いほどの質感である。今にしてみれば当たり前のマルチコーティングだが当時の革新技術のTスターコーティングが施された初期のもので、代々木のカメラ屋は希少性から強気のプライスを付けていた。千載一遇の出合いに上気した私は大枚はたいて買うしかなかった。 今からもう30年近く前のことになる。
検査の結果はほぼ安心、加齢からくる飛蚊症だという。加齢による、と言われれば問答無用、半ばありがたく引き下がるしかない。
病院のドアを開けて外界の明るさに驚いた。7年間地中にいたセミが地上に出たようなものである。 検査のため瞳孔反応が麻痺させられ、瞳が暗闇状態のままいきなり真っ昼間の街中である。横断歩道の白いペイントがたまらない眩しさで正視できない。カメラで言えば絞り解放のままで極端な露出オーバーという状態なわけだ。ピントが甘く、電線や物の輪郭が赤く滲んで見える、視野の周辺は像が流れる、、、。その見え方はレンズを解放絞りにした時の収差とイコールであり、眼球といえレンズの基本特性から逃れられない。
ハッセルを動かしてみたらフィルムが入っていた、いったい何が写っているのだろうか、発色がおかしくなっているかも知れないが、そこにはある日ある時が閉じ込められている。こういう感覚はデジタルにはないことだ。 このハッセルの質感といい貫禄といい、いくらフラッグシップでもデジカメの及ぶところではない。
最近いい写真を撮りたいとあまり思わなくなった、しかしこういうカメラはたまに使ってみたい、触ってみて紅葉の写真をこれで撮って見ようかと思った。 いい写真を得たいというよりも、ハッセルでの撮影プロセスを愉しみたいというのは本末転倒である。しかし結果が悪くてもがっかりしないだろう。
それも加齢による老境なのかもしれない。
執筆者: kazama
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