JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
つい半年ほどまえ、この辺りは桃源郷と称され、見渡す限りの桃の花だった。
空はまばゆい光に満ち、足元にはレンゲやタンポポが賑やかだった。
農家は桃や葡萄の最終段階で忙しく、どの畑にも丹精を込める人が見えた。
賑わった観光農園のシャッターは締まり椅子は積まれ、かさこそと落ち葉が舞う。
日は南に傾き長い影を引き、午後は早々と日暮れの貌をして赤石岳のむこうに沈んで行く。
陽春のころのこの土地と、いま秋風吹き抜けるこの土地が、同じ場所だとは思えない。
短期間のうちに見せる、この極端な貌の変化は、陰と陽、裏と表、光と影のようだ。
神奈川の住宅地に住んでいた頃にはなかった季節の表情だった。
豊かな四季、変化に富んだ美しい景観は自然の恵みとして、それを楽しんできた。
しかしこのめまぐるしさに戸惑い、ふと、ついていけない感覚が自分の中にある。
体内時計の遅れが、実際の時間を短く感じさせるメカニズムだという。
古来からこの自然のサイクルを、日本人はどう捉えてきたのだろう。
花鳥風月といった情緒としての解釈を表向きなものとして、
一方でたたみかけるように何かを迫るものとしての側面がなかったろうか
日本人の律儀さや勤勉さはこの圧力から生まれたのかもしれない。
またそれは、社会に適合できない弱者にとって、刺すように迫ってくるものではなかったろうか。
---美しいものには刃がある--- 秋の美しさにはそれがある。
執筆者: kazama
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