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2019年03月26日 20時53分 | カテゴリー: 登山

犬のゆくえ

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もう暮れかかるころ、738mの山から降りかかると犬が上がってきた。飼い主がすぐ上がって来ると思ったが一向にその気配はない。ここで人と会うことは殆どない山だ。犬は迷って山へ上がってきたのだろうか、私と出合って安心したように見えた。見ると首輪に発信機らしきものが付いている。

この山を上がっても人里はなく、やがて1200mを超える奥山へ至るだけだ。一緒に降りようと促すが、迷う様子は見せるが付いて来る気配はない。犬は降りる私を見ているので呼んでみるが降りてこない。やがて犬は意を決したように登っていったのでそこで別れた…

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冬至には南端の笊が岳に届いた太陽は、お彼岸を過ぎて中間地点の間ノ岳に沈んだ。夏至ともなれば北端の甲斐駒から鋸岳を遥かに北上する。今年の夏はまた40℃越えとなるのだろうか。。この目まぐるしい太陽の動きを、一体何億回繰り返してきたのだろうか。その区切りとなる冬至と夏至を認識し、神聖な日としたのは、たぶん縄文の頃からではないか。それは高々一万年から2万年ぐらい前のこと。それ以前の永遠ともいえる昔からの、律儀と言う言い方はおかしいが、この規則正しい、いやそれも設定した主体となるものがないから規則ではない。この偶然に、そこに発生した生物の全てが適合し、今日に至ったのだ。。その末端といえる今日が終わる。
なぜあの犬は山を登っていったのだろうか。その目的はひとえに家に戻りたいからなのか。犬には冬至も夏至も、暦もなく、時計もない、衣服も靴も、なにひとつ道具をもたないことはどういう境地なのか。。おそらく人間にいちばんちかい生活を送る犬ではあるが、その内なる世界との隔たりに圧倒される。機械文明の分野ではめざましい進歩がありながら、ともに暮らす犬との、明確な意思疎通ができる何らかの手段が欲しい。

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 翌日は思い立って、昨日の犬を追ってみようという気になった。
あのまま登っていったとして、その奥の山から逆回りで登ることにした。
あの犬に会える可能性は薄いが、万が一腹でも空かしていたらと思い余分な食物を持った。
大久保山の北斜面を適当に登るうちは良かったが稜線にでると猛烈な倒木に阻まれた。

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昨年の24号台風は私が小学生の頃の台風以来、50年ぶりの強烈な南風で家が胴震いし恐怖を感じたほどで、並びの5棟の瓦が飛んだ。
冬枯れの人気の少ない山を暫く歩いてなかったが、この有様では私の好む尾根筋は難度が格段に上がり、峡東地区の山の南面は当分無理なのではないか。

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( 倒木は根張りの土壌ごと剥離し地盤のダメージにつながる )

それでも折角尾根にでたのだからと意地をはって登る。
不明瞭な山は尾根筋を外さないのがセオリーだが倒木だらけでは迂回せざるを得ない。
潜ったり跨いだり木に乗ったり、通常の三倍ぐらい時間がかかる。嫌気がさして以前トラバースしたことがある北斜面に降りようかと思ったが上手くトラバースのポイントが見つけられるか不安なので辛抱することにした。
 注意が必要なのは激しく迂回するうちに方向感覚を失うことだ。幸い枯木なので山が見えることが救いだった。

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( やっと神領山のピークに着く。ここから達沢山まで尾根を辿ったことがあるが到底無理な状況になった )

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( 京戸山北稜 北面唯一の素晴らしい尾根 )

 この倒木の山に、あの犬が来たことは考えにくい。私に犬のような嗅覚があれば辿れるだろうが。あの低い視点の犬はどんな世界の見え方なんだろう。倒木の下を潜るのは得意だろうが、跨ぐとなれば人間のほうがまだいい。

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( 樹間に目指す蜂城山が見えてくる )

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( 大久保山方面にはバリアが張ってあった )

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( 辿ってきた大久保山からの尾根を振り返る。南側の山腹は倒木でとても歩けない状況 )

 結局通常の三倍もかかって道を確保してある蜂城山についた。犬の捜索どころか自分が迷わず戻ることで手一杯になってしまった。

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( 元禄時代に建立された社殿の屋根が飛び貴重な文化財が剝き出しになり応急処置してある )

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( 社殿の屋根は基礎ともに山腹まで飛ばされた )

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( 樹木が倒れ周囲は明るくなった蜂城天神社 )

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( 下山路からの南アルプスはまだ白い 山は冬の棲家 )  

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( 登っていった拝道を振り返る )

 しかしあの犬はどこへ行ったのだろう。願わくばあの発信機らしき位置情報から、この倒木の有様では難儀はするだろうが、飼い主が探していてほしいものである。

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執筆者: kazama

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