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Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN

2021年09月26日 22時13分 | カテゴリー: 登山

北岳古道 杖立峠から五葉尾根小舎跡を探す

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(夜叉神の石碑 古来の杖立峠は夜叉神を経由しない説がある)

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(夜叉神より大唐松の尾根 ここは行かずに終わった)

 現在の北岳はバスの通う広河原に恵まれ、近年は日帰り登山者が増えている。本来は奥深いこの山に至るルートは、池山吊尾根以前の経路は時の迷宮に吞み込まれてしまった。その中でウエストンが芦安の案内人と辿ったと思われる広河原への杣道の痕跡を求め夜叉神から大崖頭山の先、杖立峠へ登った。

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(なぜか本来ではない位置にある杖立峠の表示)null

(鷲住山へ至る尾根を下ってみたが踏み跡は皆無)

 杖立峠の表示は大崖頭山から鷲住山へ降りてゆく尾根上にあるが、本来は苺平から辻山への尾根上の鞍部である。峠から広河原に至る旧い杣道を探るが凡そ80年も前の山仕事道が遺っている訳がないから,無数にある獣道のひとつを辿ってみる。人間も獣も、いちばん労力のない合理的な道を辿るだろうと思う。。

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(最低鞍部から らしき獣道に入ってみる)

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おぞましき(笑)グロテスクな生命感

 すでに尾根筋から外れているのに古地図には杣道のこの先に五葉尾根小舎があることになっている、その痕跡でも発見できれば、というのが思い立った気まぐれである。

 しかし確証もない獣道をあちこち選んでも人間の痕跡らしきものは皆無で虚しい。GPSの軌跡で退路に心配がないので小舎が在るとすればの尾根に行ってみるが傾斜が強すぎて適地がない。

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(もしやこの猫の額の小平地が小舎あと? まさか)

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(杖立峠標識からの尾根の先に鷲住山が見える 尾根上に古来の道はなく
新たな林道から鷲住山を降り野呂川へのルートができた)

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急傾斜だが低い笹の気持ちの良い桃源郷にでた。
秋色を帯びてきた尾根が見える僅かな平地に腰を下ろし昔を偲んだひととき。。そこをふり返り、この小地との縁をかみしめ、お別れをする。

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(ガーミンの探索軌跡 小舎跡はいずこに)

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(登山道から東に上る獣道、いや踏み跡?)

 鳳凰への登山道から本来の杖立峠と思われる鞍部に戻る、ここから杣道は現在の登山道とは違う経路を辿っていたと思われる。古地図はあてにならないが、尾根の東側だった説があり、ここが峠とすれば妥当な推測である。やはり獣道だろうが、いかにも古来の径らしく、それを大崖頭山を目指してみる、紆余曲折はあれど歩きやすく何か心安らぐ静寂のひとときだった。

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 ふと枯葉のなかに黒いものがあり、それは脱落したゴム長の踵だった。今日はゴミひとつ、無論テープも人跡の一切ない中に残された誰かの踵。この2200m近い奥地の山稜に長靴で訪れたひと。。芦倉では女性の多くが荷役に携わったというが、遠い日のその姿を偲んだ。杣道は尾根の東側を通っていたことの,踵はひとつの裏ずけだろうか。思わず手にとって持ち帰り、いつの時代のものか調べてみようかと思った。いったい何年ゴム長の踵はこうしてここにあったのか。もしや私の生まれる前の、ある日のことだったかもしれない。。それを私の気まぐれで動かしていいのだろうか、この地とこの踵は、互いに沁みあって不可分の歳月を過ぎてきたのだろうと、そっと戻してきた。

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(物言わぬ者たち その意志)

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 五葉尾根とは何処を言うのか。。夜叉神へ降りる道すがら 山稜の東側の獣道。。あれは杣道でもあったろうか、そこにあった風化したゴム長の踵。地に戻すときのその手触り。あそこでの沈黙。。私の亡きあとも(笑
そんな痺れるような心持で歩く私を
「ごめんなさい」と女性を交えた三人のトレランの若者が抜いていった

(F)

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執筆者: kazama

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