JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
白根南嶺の全貌 広大な別天地
管理された登山道がないマイナーな山域である。
3日目の広河内を越え池之沢への踏み跡に誘い込まれ、気が付けば南嶺が左に高い。戻るのも癪だと強引にハイマツを一時間弱で南嶺に戻った。
白河内の広いピークからは尾根が派生し、笹山へ行く方向を迷っていた。くぼみの向こうに南下する尾根があり、北上してきたらしき登山者がハイマツの中でルートを探しているように見えた、農鳥以南で初めて出会った人だ。
…そうか.あの尾根でいいんだ…なんとラッキーな出会いだろう。お互い南下と北上の情報交換ができる。 登山者との距離は50mほど、私は久々に人と会った嬉しさもあり手を振って存在をアピールした。迷っている彼にも私の存在はルートの指針になるにちがいない
しかし奇妙なことに彼は私を見ようとしない。私のいる場所は小さいながらケルンがある歴然としたピークであるから目につかない筈がない。 私はザックをおろし、とっておきのミカンの皮をむきながら彼を待った。
しかし待っても彼は来ない。くぼみのところにもいなかった。…登山者は忽然と消えたのだ。
緑のパーカーで、なにか落ち着かない動き、会社の知人をイメージする動作が目に残っていた。
消えた登山者は結果的に私にルートを示してくれたのだ。
…この登山者を幽霊と言ってしまえば話は簡単だが、そういうのを私は信じない…
しかしあの時は、もし仮に幽霊というものがいるとしたら人間を助けてくれる存在ではないかと思った。
その後は幸いルートミスもなく大展望の笹山北峰についた。ここで泊まるかと思ったがちょっと早い。あわよくば笊までと思っていたから南峰まで下って寝ることにした。かなり先の尾根上に赤いパーカーの人影が見えた。北上してくるらしい。出会ってみると緑の上着。。赤いパーカーの方は連れなのかと尋ねると「ああ、脱ぎました」と笑った。 白河内で出会った緑のパーカーの人がもしや南下したかと聞いてみると、人と会ったのは私が初めてとの事だった。農鳥へのルート状況と転付へのルートの情報交換し別れた。
南峰につくとあまりに平凡な頂上で拍子抜けし泊まる気にならなかった。少し南下し大井川源流に張り出した見晴らしのいい台地に泊まることにした。
いつも西の空に眺めていた白根南嶺に寝ている感慨が沁みてくる静かな夜だった。
翌朝テントを撤収しながら北峰を見上げると、人影が見えた。ああ、やはり北峰に泊まったのだ。羨ましかった、彼からは私のテントも見えるだろう。。手を振っても声も届かない距離だったが、通ずるものがあった。ピカリと光るものがあり、そして姿が消えたとき、私への挨拶としてストロボを光らせ、農鳥へ向かっていったのだ。。なんという機転、なんという粋な計らいだろうか。さすが南嶺の盟友。名前も聞かず、これきり、という未練がいい。総ては偶然が支配し、それに任せればいいのだ。
しかし白河内で会ったあの登山者はどこへ消えたのだろうか
…あのことの謎は仮定を巡らしても判らない…
執筆者: kazama
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