JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
登山バス運行最終日。吊尾根末端を目指し、6時過ぎに鷲住山で降りた時、私の他に珍しくもう一人のカメラマンが降りた。
ここで鷲を見たことありますかと聞かれたが、たぶん山名からそう思われたのだろう。
鷲住山というのは江戸時代に鷲を保護していたという伝説からきたらしく、むろん私は鷲を見たことはない。
吊尾根末端への経路は分からず敗退、私は広河原からの甲府行き最終便に乗り、しばらくの見納めと暮れる山々を眺めた。
ほとんど暗くなったころ鷲住山から、今朝のカメラマンが乗ってきた。早朝からずっと鷲住山で鷲の出現を待っていたのだ。
バスに乗るなり彼は、二羽のイヌワシの飛行を撮影できた、はるばる香川県から来た甲斐があったという。
ネイチャーフォトと思っていたが、四国からイヌワシを求めて、貴重な生息地である鷲住山に来たのだ。
私は単なる伝説上の由来からきた山名だと思っていたが、この険しい鷲住山のどこかに、今も連綿とイヌワシが生息する。
9月ごろから、その鷲住山をバスが通るとき、なぜかヤマドリが決まって現れるようになった。
野生動物が人に懐くわけもなく、しかし娑婆に帰るバスに追いすがるかのような、そのしぐさがかわいらしかった。。縄張りを主張しているのか警戒なのか、その行動の「真意」は分からない。
しかし最近になって、あのヤマドリがぱったり姿を見せなくなったらしい。その話をカメラマン氏にすると
「ヤマドリはイヌワシの餌ですから」という。。。ということは食べられたのか。。。実際にウサギと共にヤマドリは、イヌワシの最も貴重な食料源だという。
哀れヤマドリ。。。しかし絶滅の危機に瀕し、推定僅か500羽というイヌワシも生き延びてほしい。。。これが自然の営みというものだ。
動物界は裾野の広い食物連鎖で成り立っている。イヌワシはその頂点に近い、それはより豊かな生態系の環境を必要とし、近年の環境変化がその生存を危うくしているのだ。ここ鷲住山にイヌワシが生息しているということは、その環境が残っている証明になる。
動物の命の本分は、下位の命を食し、子孫を残すのと同時に、自らも食物連鎖の一員として、他の命の糧になることにある。
人間だけが、生態系の食物連鎖から逃れ、頂点に君臨することになった。そこには殺生を最小限で済むよう、自らを戒める義務がある。
「鳥葬の国」という映画があったが、あれは宗教上のことらしい。しかし肉体が他の生物の糧になるなら罪滅ぼしにもなる気がする。
死後には苦痛もないことだし、献体で医学に寄与しようと思っていたが、鷲住山のイヌワシに食われてやるのもロマンチックかなと思う(笑)
今季最終の山を下りるバス。。。夜叉神を降りるころには甲府盆地の夜景が見える。
暖かいバスの中はそんな話で盛り上がった。なにより四国から来た彼の満足そうな顔がうれしく、私たちも鷲住山を見直した。
バスはいろんな人の想いやしあわせをのせ、暮れなずむ山を降りてゆく。。
執筆者: kazama
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