JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.

〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN

2020年09月10日 16時56分 | カテゴリー: 自動車

タクシー インプレッション

20200912-img_e8821_00001.jpg

  車検で預かった神戸ナンバーのタクシーを感染状況から自粛で引き渡せず二か月近く乗った。

20200912-img_1601_00001_00001.jpg

     (7月初めに来た頃は 百日紅が咲いていた)

 乗ってみて思うのは3YというクラシカルなOHVとLPGガスによる出力特性の穏やかさだった。
2リッターで79Psというのは非力だがそれ故のマイルドさといえる。ピーク4400rpmとなっているが、ガソリンだと3Yでも97ps/4800rpmと高出力になる。
排気量にピーク回転数を掛ければ効率の差こそあれNAのガソリンエンジンの大凡の仕事量となりそれが最高出力という数値になる。因みに2Lのアストロンが5000rpm/100ps。50ccOHVの初代カブが9500rpm/4.5psとなっている。昔見たレッドライン7000というストックカーレースの映画で町工場のおっさんが7リッターを7000回転廻せば500ps近く出る、という字幕が印象的だった。20200912-toyota_aba-yxs10_3y-pe_00001.jpg

      (3Y-PE カウンターフローのOHVエンジン)

そんな穏やかなエンジンで燃費を狙ってかワイドレシオかつハイギヤードな印象がある。コラムの四速だが四速はODなのか70Km以上でないと適さない感じ。パワフルではないが非力というほどでもない。きびきびと走るというより大陸的な茫洋とした感じは心地よい。

20200912-img_9076_00001.jpg

 燃費は10から13km/L位。価格は50から80円/リッターと軽以上の経済性だが難点はガススタンドが少ない。ネットで調べてギリギリで辿り着くと閉まっていたり途方に暮れる。万が一ガス欠をするとレッカーしか手がないという恐るべき事態になる。現金の個人ユーザーなど皆無に近いらしく怪訝な顔をされる。95リッターのタンクは6年に一回の交換が義務だがリビルト品対応で一万円台らしい。航続距離が1000㌔近いので計画的に補充すればそう問題ではない。

20200912-img_8963_00001.jpg

    (うすら長いこのフォルム)

 特筆すべきはエンジンオイルが全くといって良いほど汚れない。液体を気化し燃焼させるプロセスがなく気体をそのまま燃焼なので煤が出ないことによる。その逆にディーゼルのオイルはすぐ真っ黒になる。エンジンオイルの交換は15000km毎とされ、0w20といった低粘度が燃費に貢献するとして推奨されている。私など旧人類は濃いオイルを入れたがるがガス車は低温で運転されるのでピストンクリアランスなど狭く、むしろ低粘度の方が相性がいいらしい。実際に走行後ボンネットを開けた時の熱気がかなり少ない。パワーは熱量とも言え、パワーが少ない分熱量も少ない理屈になる。実際の運用現場で3Yは奇跡のエンジンと言われ90万㌔越えの状態で更に運用中らしい。
  こんな省資源低公害のシステムが日本で普及しなかったのはガスの供給政策によるのだろうか。EU各国では環境対策と経済性からガス化が進んでいるという、ランドローバー等のオフロード車やアウトバーンでのガス欠対策としてバイフューエル化(ガソリンと併用システム)さらにディーゼルに点火系を追加した改造などが進んでいるという先進性には驚く。

20200912-img_e8807_00001.jpg

(車検からビカビカになって帰ってきた)

 このエンジンによるフラットトルクとハイギヤードに加え、柔らかめのサスも走りの特徴だが、特にリヤが柔らかいのは乗客への配慮だろうか。そのシートの深さや足元の広さは自動(運転手の手動)ドアと相まって後席で無料タクシーの気分に浸りたくなる。柔らかいサスの割にロールしないのはフロントが踏ん張るのかトレッドの広さ故だろうか。
 シャシー関連で感ずるのが空走距離の長さである。空走なんてしないのが普通だろうが私はどんな車でも動力を切り離して走ってみる。それによって素の状態での異音だのブレーキの引きずりや片効きなどを発見することがある。このクルマは転がり抵抗というものが圧倒的に少ない。もしや私が四駆にずっと乗って来たからの感覚なのか。。四駆のドライブトレインを切り離しても、またフリーハブでフリーにしてもそのメカによる幾らかの抵抗は残るだろう。この空走による抵抗のなさはいいことずくめで燃費に寄与することだろう。タクシーということの経費節減でベアリングのサイズや形式でなにか工夫されているのか、多分そんなことはないだろうが。。重量は勿論。ホイルべースやタイヤサイズやトレッドの違いで空走距離が伸びる要素がどこかにあるのだろうか。

20200912-r0129798_00001.jpg

 久々にセダンに乗ってみて感ずるのはその変哲のなさである。バンだのRVだの四駆だのワンボックスにはビジネスやレジャー、ファミリーといった、どこか目的が見える。対してセダンには目的といったものがない。乗用車という意味のなさがやはりふさわしい。歴史はくり返すというが、セダンに乗ったのは若い時のスカイラインGT以来である。スカG(笑いたくなる)はバイクのようなスピード志向だったが、老境になったいま変哲のない地味なセダンがいいと思う自分がいる。黒のセダンだと「その筋」という風もあるから出来ればグレイとか薄いグリーンの業務色のLPG仕様が(笑)ないものかと思うが。。今やマニュアルのそんなものがある筈もない。ちょいと前ならあったとしてタクシー上がりだと40や50万㌔は当たり前である。息子のコンフォートは購入時19万㌔という奇跡的物件だった。それまで乗っていたジープJ58を私に返品!!してまで乗り換えた気持ちはわかる。

20200912-r0129551_00001.jpg

    (このトランクは寐られるぐらい広い)

 これまでセダンという概念がなかったが、もし乗るとしたらどんなスタイルだろうか。。それはカジュアルでもフォーマルでもない普通さだろうか。田舎に越してきて思うのは農家の叔父さんが会合などでブレザーを着る、あの地味な好ましさである。まだ若ぶりたがってGパンを履いたりするが、ああいう地味で慎ましい、田舎のおじさんになりたいと思う。まあそして軽トラでいいのだが、たまにはベンチシートのブルーバードとか(笑)クラウンでもちょい贅沢な気がする。ましてやグリーンのジャガーとなると好きだが絵になり過ぎる。

20200912-r0129538_00001.jpg

 少しそれるが、これまでのセダン大賞とでも言えるシーンは初秋の霧ヶ峰でのものだった。私は幌のランクルBJ42だったが、空いた展望のいい駐車場に紺色のクラウンが登って来て2~3台横のスペースに停めた。背の高い50ぐらいのワイシャツの男が降りてきて、ちょっと伸びをして景色を見回し、遠い山なみに見入っていた。出張帰りなのか、その解放感と品位がなんとも男盛りの色気を感じた。そこには多分にスタンダードなものの見え方がある。普通こそ王道。ダンディというのは内からにじみ出る、ああいうものだろうと思った。彼の後ろのクルマを眺めた。CLOWN マジェスタ V8とある。。彼もまたクルマ好きなのだがベンツや何がしでない加減がいい。。。霧ヶ峰に止まる私の白のランクルBJ42と ちょっと離れて一見変哲のないCLOWNマジェスタ 負けたと思ったが、あれに乗ることは私の生活スタイルそのものから変えねばならず、たぶん板につかないだろう。彼のさり気なさは、彼が辿ってきた道と、培われた人間性があるのだろう。ダンディというのは一丁一石でいくものではない。
 このタクシー上がりのコンフォートはまだ22万㌔である、鉄板の厚さや重厚な造りはパーツが有る限り乗れるだろうし、この変哲のなさはまた、飽きるとかいう要素がなさそうである。泊まることもあの広さで何とかなるだろう。
何よりの満足感はこの何のことはないセダンが業務用に作られていて、ジープやカブや軽トラに乗るような素っ気なさがあることだ。

20200912-img_e8848_00001.jpg

執筆者: kazama

This post was displayed 1156 times.