JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
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この悪相の山は笛吹川東沢鶏冠山、屹立する威圧感は鶏冠城という感じだった。通常の登山とはちょっと違い、参考文献なども少なく、まともな登山道もなかった。
高校生の時、この山に友人とチャレンジする計画をたて、家にあった20m程のロープを持ってバイクで向かった。
どうにか尾根の末端を探し一時間ほど順調に登れたが、気になっていた岩峰を迂回するルートがなかった。極めて傾斜が強く、どこまで上に続くか解らない岩峰を強引に登るのか、さすが甘くないと思った。
ビビりながら意を決して登り始めた。10m近く登り、凹角の上が、かぶり気味の岩があり、乗り越えようとしたら一抱えもある岩がグラリと動いた。その岩を越えないとこの岩峰の上部に行くことはできない。ちょっと下に僅かなテラスがあり、上部からの落石も避けられそうなのでなんとか腰をかけた。
緊張で喉が渇いたのでザックから水筒を出した。この岩峰を超えるのは無理がある、この凹角を越えても上部がどうなっているのかわからない。友人もこの登山は中止し、撤退することには依存がなかった。
ところが狭いテラスの上で、キスリングを背負うという動作ができない、バランスを崩しそうである、そこで持参のロープを使い、ザックだけロープで降ろした。そんな形でロープが役立とうとは思わなかった。
この撤退は、登頂できる確信があっての登山ではなかったので悔しくはなかった。しかしあの岩峰の直登をしないルートがきっとあるはずだ、その思いはその後もずーっとくすぶり続けた。
( 40年ぶりのトラヴァース )
南北アルプスなど、著名な山に行くあいだにも、鶏冠山のことはいつも頭の片隅にあった。50代も後半になり、体力のあるうちにと思い行くことにした。
私の基本は単独だが、念の為にザイルを持っていくような山ではリスクが大きすぎる。目星をつけておいた、会社の山好きの友人を誘った。
40年ぶりの課題と疑問を解明する山行はさすがに高揚した。
岩峰基部までの直登は高校生の時より踏み跡が濃くなっていた。岩峰基部につき、見上げると見覚えのある凹角と枯れ木があった、あそこで進退窮まり撤退したのだ。そう思うと胸があつくなった。
17歳の少年だった私の願望を40年後の私が受け継ぎ、未知の尾根に向かうのだ。 案の定、岩峰を迂回するトラヴァースルートが左に下降気味にあった。「やはりそうだった」40年前はきっと踏み跡にもなっていなかったのだろう。私は浜松にいる友人にこの事を伝えたかった。意外にも携帯の電波はつながった。
「いま鶏冠山にいる、やっぱりあの岩峰の下に、左に迂回するルートがあったよ」、、友人は「そうか、やはりそうだったか」と言った。
私達は40年の時を経て、こうしてそのことを会話できた感慨に耽った。
いま鶏冠山は山梨百名山に選定されている
山梨という限定された中での百の選定という条件なので日本百名山を超えた難易度の山が3つほどあり、鶏冠山はその一つである。
ガイドブックに登山ガイドがあったので立ち読みした。
そこには木賊山という鶏冠山より高い山から尾根を南に下り、鶏冠山の頂を往復するというものだった。そのような登山になんの意味があるのだろうか、いや、意味はなくてもいいが喜びがあるのだろうか。
鶏冠山の核心部は、笛吹川の川床から一気に立ち上がる、この鋭い尾根にある、そこを辿らないではこの山の素顔はわからない。そういう山の登り方を表現すると、山の頂上にタッチしてきた、という感じがしてしまう。
その後の登山の記録の概略を下記しておく、これから鶏冠山を目指す方の参考になれば幸いである。
am5時過ぎ、千米寺を出発、ランクルは広瀬の駐車場に置く。
西沢渓谷への道から東沢には、通行止めを無視して右の谷へ降りる。
鶏冠谷出合までは三回の徒渉(飛び石伝いで可能)、登山口の標識は完備していた。
末端からの尾根にとりつくが道は良い、但しジグザグは切っていない。一時間強ほどで壁状になり、尾根が消える、40年前はこの壁状に向かい撤退した経緯がある。
ここから道は壁の際をトラバースになり、しばらくは下る。
のぼりになると極めて急斜面で湿っている、木の根を頼りに強引に登る。チンネのコルでトラバースは終わり、登山道は右折、急登のあと平凡な登りが30分ほど続く。
頭上に灰色の岩が見えはじめると第一岩壁と呼ばれる場所にでる。ルートは正面にもありそうだが10メートル近い岩登り、但し容易そうである。右に回り込むと巻き道があり、木の根を頼りによじ登る、上りきると素晴らしい高度感の尾根上に出る
ここから道は高度感のある岩尾根上になる、慎重にルートを探しながら歩く。
巨大岩峰は50メートル以上真下に下りて巻く、登り直してコルにつくと第三岩峰迂回路の標識があった。
広瀬方面に30メートル程で山梨百名山の標識のある山頂につく、東沢、釜の沢の高度感はすさまじい。
昼食後、1245頃、木賊山にむけて出発。緊張感から開放されるが石楠花の密生が激しく歩きにくい。
30分ほどで本来の鶏冠山山頂につく、まあまあの展望だが標識はない。
山頂から先は次第に尾根が痩せて来るが、木立によってそうは見えず、注意が必要で再び緊張が始まる。やせ尾根は延々と続き、極端な所は尻をついて通過する。展望の良いピ-クを過ぎると尾根は右に曲がり樹林帯に入る.
所々痩せた尾根もあるが、全体としては広くなった尾根を北上する。
ピークを過ぎて下り、尾根が二分したところで右の踏み跡に入る、くだり気味で行き止まる、下をのぞき込むと断崖の上の、ふわふわの張り出しに居ることが分かりぞっとする。そっと後ずさりしながら戻りほっとする。今回のルートでいちばんの要注意個所であり、鶏冠山の恐ろしさを実感したところである。
ここからは展望の良い岩峰を通過したあと、さしもの鶏冠尾根も木賊山に吸収され平凡な樹林帯になる。踏跡は木賊山の東端に達するのかと思ったら左にトラバース気味になり、巧妙に木賊山西端に達していた。そこからGWの登山者でごったがえす甲武信小屋まで10分程だった。
執筆者: kazama
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