天空見張人

   私は退職したての空白もあって三月末に石巻市に入りました。

ボランティアセンターで4〜5人のグループになり、

被災した家庭や商店から使えなくなった家財の搬出を行ないました。

冷蔵庫にまで入った２週間前の黒い海水を被ったり、衛生状態が悪く、

また釘の踏み抜きによる破傷風への注意と保険に加入させられました。

    精肉業の現場を割り当てられ、海水に浸かり腐敗した大量の肉を処理するとのこと、

肉を食べられない私には凄惨な様相が浮かびました。

無理ですとは言えないので覚悟を決めて向かいました。

店主が留守で作業が出来ないとのことに正直ホッとしました。

   代わりの現場は老舗の和菓子屋さん、

釜やら見たこともない治具やら全部が海水に浸かり、また破壊され、

歩道にうず高く積まれた瓦礫の山に運びました。

初老の社長から饅頭を頂きました。

このお店の名物だったとのこと。僅かに海水から免れたらしい。

『創業７５年でしたが、これがほんとの最後の饅頭です、皆さんここで食べてって下さい』

…私達は立ったまま丸くなり饅頭を食べました。

   おいしかったですという私達に、社長は下を向き、無言で頷きました