JOURNAL SKIN
by : DIGIHOUND L.L.C.
〒658-0001
Higashinada, Kobe, Hyogo JAPAN
ミゼレーレの山‥
‥白根南嶺の縦走を目指し、小太郎山から南下して三日目
農鳥岳以南に確たる登山道はない。
広河内岳でミス。左の山陵が自分より高いことで南嶺と判明。
大井川源流へ導かれる踏み跡から広河内まで戻るのも癪に障る
左へハイマツ帯を強引に斜上するが方向が定まらない。
遥か高みに白い枯木があり、あれを目指そうと、ひたすら登る。
ヘッドフォンのFMから 14歳のモーツァルトが父に連れられ
南イタリアの聖堂で出会った 門外不出の調べに心酔し
一度聴いただけで譜面化した天才と 神曲ミゼレーゼ。。
その厳かさと透明感‥深い空に白い枯木が十字架のように見えて
其の登高は召されていくような恍惚感があった。
そのことで私の南嶺は『ミゼレーゼの山』になった
音楽と山は相互関係にあって、山を想えば音楽が奏でられ
また逆に 音楽の調べから山を彷彿とする。
あの白峰南嶺の広大な無人の高地はまさに神曲の導きだった。
白根南嶺の全貌 広大な別天地
しかしあの時は、もし仮に幽霊というものがいるとしたら
人間を助けてくれる存在ではないかと思った。
その後は幸いルートミスもなく大展望の笹山北峰についた。ここで泊まるかと思ったがちょっと早い。あわよくば笊までと思っていたから南峰まで下って寝ることにした。かなり先の尾根上に赤い人影が見えた。北上してくるらしい。出会ってみると緑の上着。。赤い服の方は連れなのかと尋ねると
「ああ、脱ぎました」と笑った。 白河内で出会った緑のパーカーの人がもしや南下したかと聞いてみると、人と会ったのは私が初めてとの事だった。農鳥への状況と転付へのルートの情報交換し別れた。
南峰につくとあまりに平凡な頂上で拍子抜けし泊まる気にならなかった。少し南下し大井川源流に張り出した
見晴らしのいい台地に泊まることにした。
いつも西の空に眺めていた、あの白根南嶺に
身を横たえている感慨が 沁みてくる静かな夜だった。
翌朝テントを撤収しながら北峰を見上げると、人影が見えた。ああ、やはり北峰に泊まったのだ。羨ましかった、彼からは私のテントも見えるだろう。。手を振っても声も届かない距離だったが、通ずるものがあった。ピカリと光るものがあり、そして姿が消えたとき、私への挨拶としてストロボを光らせ、農鳥へ向かっていったのだ。。なんという粋な計らい。さすが南嶺の盟友。
名前も聞かず、これきり、という未練がいい。総ては偶然が支配し、それに任せればいいのだ。
しかし白河内で会ったあの登山者はどこへ消えたのだろうか
…あのことの謎は仮定を巡らしても判らない…
執筆者: kazama
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