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留学生文学賞授賞式授賞式ルポ

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留学生文学賞 2006年授賞式 ししろうの授賞式ルポ

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今回の受賞者は全国におよぶ。遠方からも参加するとあって、開場1時間前から早くもスタッフらの準備がはじまった。

入口では61ページからなる「2006 留学生文学賞作品集」が用意され、横にはボヤンヒシグさんの『懐情の原形 ナラン(日本)への置き手紙』の増刷版が販売されている。

 続々と

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一番に到着したのは空港から直行したばかりという札幌在住のジン リーファンさん。会場前のロビーではジンさんが持参した北海道名物のじゃがいものお菓子が広げられ、早くも和やかな交流がはじまった。栖原暁さんが言う“あたたかい小さな文学賞”が、留学生の心遣いでここでも垣間見られることになった。

ジンさんは、スタッフをはじめ、同じくこの記念パーティのために上京したという選考委員の田 原(デン ゲン)さん(文学博士・東北大学講師、中国語と日本語で詩集を出版)からも中国語で激励され、「あたたかい雰囲気におどろいています」と感激していた。

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続いて北九州から駆けつけてきたのはグンテブスーレン オユンビレグさん。九州共立大学とモンゴル国立大学の1年間の交換留学で日本に。昨年9月に来たばかりという。「来日して3日目に、大学でこの募集ポスターを見ました。3日後には〆切だったので、1日で仕上げました。」と、18歳の勢いのある若さいっぱいの笑顔にロビーが明るくなる。「私、本当は大賞がとりたいんですけど、9月には帰国するんですけど応募してはダメですか」と逆に質問。あわててスタッフに問い合わせる。選考委員の住枝さんは「そんな決まりなんてのはどうでもいいんだよ、良い物書いてくれりゃいいんだから。」と。要は情熱ということか、その辺のアバウトさを彼女に伝えた。

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中国語新聞の取材を受けているチョウ シキンさん。母親は遊牧民だという。内モンゴル出身。渡された資料を見ながら、留学生文学賞が母国出身者が縁で始まったと知り、涙を見せながら、モンゴルの写真に見入っていた。

北から南まで、受賞者6人全員が出席する予定とか。「交通費が足りなくなるのでは」と、事務局のうれしい悲鳴。ひときわ長身のシリン ネザマフィさんも到着し、早速質問攻めにあっていた。

 授賞式

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定刻18時、既に80名を超える入場者で会場はうめられた。

住枝清高さんの司会で開会。「酒をあまり飲ませないように私に司会を押し付けられたと思う」とアットホームな冒頭宣言(?)があり、和やかな式がはじまった。


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栖原暁さんからは「13ヶ国・地域から78点と昨年を上回る応募があった。前回よりレベルは上」と状況説明があった。壇上から降りた栖原さんは「回を重ねる毎に大学関係者の協力も強くなったのではないか」と説明してくれた。それを証明するかのように、大学のポスターで知ったという受賞者は多かった。中でもレオン ユット モイさんは大学のEメールで知ったというから幅広い協力の輪が広がっていることがわかる。受賞された方は皆、日本語が流暢なのに驚く。広く広報されるようになったことがレベルの高さにもつながっているようだ。

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宮崎学さんが乾杯の音頭。「酒が飲めない人間に乾杯をやらせるのも酒飲みの考えそうなこと」と揶揄しながらも一口舌を濡らしていた。大病の後だけに、体調を気遣って間もなく中座された。ボランティアで運営されるこの賞が続けられるには多くの協力があってのこと。

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選考準備で上京しながら、全作品に目を通したという木村哲也さん(北海道教育大学助教授)も影で支えた一人。「一行一行読み飛ばせない、その人にはその人が育ったアイデンティティがある。中には日本語が変なのか、それとも下手なのか、わからなくなる作品もある。このパーティは書き手の背景を知るいい機会なので楽しい」と苦労より喜びの方が多いと話してくれた。

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トロフィーはアル「鋳」のぺーさんこと、金工作家・北村鐘(あつむ)さんの作。

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副賞にはおなじみとなった沖縄の民間団体「アジアを歩く石敢當」のメンバー・新川美千代さんから、受賞者全員へ沖縄旅行がプレゼントされた。5月のゴールデンウィークにかけて行われる。

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関係者ばかりがボランティアではない。激励にこのパーティに参加する人もこの賞を支えている人たちだ。第1回目からパーティに参加しているという常連参加者もいた。その一人が平瀬卓史さん(イラストレーター・たけ工房)。
「留学生の母親運動をしていて、この賞を新聞で知り、面白そうなので参加しました。生の留学生に接して、世界の文化を知ることができるのもいい。留学生には明るく辛抱強く頑張ってほしいと願っています。できる事を、できる時に、できるだけ続ける。そうしないと続かないですからね。」
と留学生にエールを送る。この賞の特徴はユニークな副賞にもある。平瀬さんはその一つ、「浮世絵」の提供者でもある。

 受賞者たち

受賞者の挨拶に移り、上座に勢ぞろい。

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はじめに大賞のシリン ネザマフィさん。「日本に留学させてくれた親にも感謝したいが、運にも恵まれ、今回沢山の人の励ましで受賞できた。」と話はじめるとハプニングが起こった。司会から、「その人も来てるんでしょう。」と同行してきたイラストレーターの神戸美徳さんが紹介された。神戸さんは彼女の作品を元に漫画を大学の機関紙などに連載してきた。

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続いて、遅れてきたクアク コフィ バリリさんも新幹線で大阪から到着。ただ一人の男性受賞者。「前の様子がどんなだったかかわからないけど、盛大でびっくりした。」と感謝のことば。

よく聞くと、「ほんとうは就職活動で忙しく、参加する気はなかった。東大の教授だという栖原さんから、直接電話があったので、何とか来なければと思った。でも今は、出席しなかったら最悪になったと思う。沢山の人が声をかけてくれたし、作品のことを聞いてくれた。賞を受け取って帰るだけと想像していたので、想像以上だった。授賞式がどんなに素晴らしいことか、もっと仲間にも知らせてあげたい。私も賞金は欲しいけど、形だけの賞でももっと沢山の人にあげて、この場に来て、この喜びを味わってほしいと思う。」彼には声をかけてくれた人がどんな人かはわからない。留学生の彼らにとっては宮崎学さんでさえ"manabu miyazaki who?"のようだ。近くの参加者に「70冊も本を書いている人ですよ。」と教えられると、すっかり恐縮していた。

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「今度は大賞をねらいたい」というグンテブスーレン オユンビレさんがひときわ元気だ。パーフェクトに日本語を話す彼女だが、18歳にして昨秋留学したばかりだが、5歳から10歳までは親と一緒に仙台に住んでいたという。彼女もモンゴル出身で「この賞が内モンゴルの人がきっかけと今知って、うれしくなりました。」と思い描いていた日本との違いに戸惑いながらも喜びを語った。

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同じく「次は大賞にチャレンジしたい」と話していたのが、レオン ユット モイさん。日本近代文学を学ぶ広島からの留学生。専門的に勉強している彼女だけに「文法が難しかった。作品を評価する側からされる側になって不思議な気持ちです。」と、レベルを高くとらえるゆえの苦労を語っていた。

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「旅行が好き」というジン リファンさんは昨年の4月に来日、5月には大学のポスターを見て応募した。彼女は「旅行しながら感じたことをすらすら書けたのですぐまとめられました。」と述べて、「今度はちゃんと書きたい」と次回応募を見据えていた。

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最後に挨拶に立ったのはチョウ シキンさん。独協大学で独語を学んでいる。受賞者の中では一番近い足立区からやってきた。所用で出席できなかった選考委員の西原理恵子さんが、ラップのリズムがすると評した、彼女の作品「焼肉屋合唱曲」の舞台である焼肉屋でアルバイトをしている。「アルバイトに電車で通いながら考えていて、1日で一気に書き上げました。」と自立した力強さが伝わってくる。「日本人のために書いたのではなく、自分の気持ちを整理する機会にしたかった」と応募の動機を聞かせてくれた。 

 先輩

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受賞者の声を聞きながら、感慨深気な田さんがいた。田さんは留学生、受賞者の経験者であり、選考委員でもある、唯一この賞の全ての経験者である。「今回の受賞者の中には、将来プロとしてやっていける可能性を持った人もいます。また他の分野でも活躍していく人たちです。どうかその道でプロ意識をもって、日本人以上に努力していって欲しい」と。田さん自身、この賞を知ったのは名古屋の知り合いが新聞記事の切り抜きを送ってくれたのがきっかけとか。きっかけはどこにあるかわからない。「応募したときの思いをもち続けて欲しい」という宮崎学さんの励ましが、彼らの心に残るに違いない。

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21時前、受賞の喜びも冷めぬまま、二次会の檸檬屋へと三々五々電車で移動。

大挙押しかけ、檸檬屋開店以来の来客となり、前客は自動的に追い出されるはめに。「荷物ならびにコートは廊下に置くように」と檸檬屋主人に戻った住枝さんから声がかかるも満員電車並のすし詰め状態。入りきれない人たちは廊下での歓談となった。

上階の踊り場に、急遽スタジオを設置、それぞれのインタビューが行われた。

(フリーライター・ししろう   写真: 冨安 大輔 )

記事イメージ

授賞式の翌週、朝日新聞夕刊の文化欄に、授賞したシリンさんを紹介する記事が掲載された。“こと場”という短いコラムだが、受賞作サラムを評した辻井喬さんの言葉が作品の特色を的確に伝えている。(スクラップブックにも掲載)



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