開場30分前。ロビーにつぎつぎに到着するちょっと緊張した表情の入賞者を支援者やスタッフが笑顔で歓迎する。栖原教授もなにかといそがしそう。受付には副賞の饅頭の箱が積まれ、沖縄からは色鮮やかな桜の花も。中央のソファには5時過ぎにはやばやと到着した受賞者らと話す審査員の作家・宮崎学さんらの姿がみえ、詩で入賞の学習院在学中の廬珊さんが「文学はもともと好きだったのでいい機会でした」と語るなど、早くも和やかな雰囲気。
「審査員に読んでもらえる機会はなかなかないので、どんなふうに読んでもらったのか知りたい(栗さん)」(写真左上・左)「審査人の先生に会えることを楽しみです」東京外大留学中のタップホン・ナリンさん。
名古屋大学のイ・ジヒョンさんさんは
「恥ずかしいので誰にも知らせないでこっそり来ました。あまりいいことがなく疲れているので、自分にいい褒美になりました」。
「他の留学生と交流を楽しみたくて」
と入選を逃した阪大留学中のマッテオさん(イタリア)(写真左・左。写真左・右は陳夢さん)や応募していなかったが興味を持って参加した廬さんの友人王さん(写真下右・左から二人目)もいた。
こうした参加にもこの文学賞が留学生の間に広く知られるようになったことが伺える。みなとても礼儀正しく、日本語も丁寧な言葉や敬語を使って話せるのに感心した。定刻前には、待望のお子さん誕生のため帰国したベトナムのチュ・スワン・ザオさん以外の受賞者3人がそろい(写真右)、支援者や招待客ら60人でにぎやかになっていた。
「今年は大賞がなく客の集まりがちょっと心配」という関係者の声をよそに、すでに60名が集まった。
「才能は感じますけど、今回大賞がなかったのはどうしても書きたいという気持ちが弱く、足りなかったように思います。全般的な質は向上しているし、底上げされている印象はします」(福島みち子さん)(写真左・左端)。
「作品の数はかなりありましたけど、留学生が頑張っているから責任を感じるので、全部読みました」(辻井喬さん)(写真左・中央)
というように、審査員がとても好意的に読んでくれるのもこの賞の特徴だ。
水野事務局長も
「辻井さんはじめみなさんどの作品にも目を通し寸評を入れるなど、頭が下がります」
という。審査委員熱意ある審査を行なって、今日留学生に合えるのを楽しみにしてきた。体調を崩し欠席の吉岡治さん、所用で出席が適わなかった帰国中の田原さん、西原理恵子さんが強く押した作品も入選した。ちなみに主催者はもちろん、審査員も全くの手弁当だ。
1999年暮れに内モンゴルの詩人ボヤン・ヒシグ氏が書き残したエッセイがこの賞のはじまり。ボヤン氏のエッセイに感動した客とともにそれを本として出版し「文学賞発祥の地」となった飲み屋・檸檬屋主人の住枝清高さんが司会をつとめる(写真右)。
「日本語の才能がありながら、発表の場もなくそのまま帰国してしまっている人もいのではと思いで、一人一人のボランテアの協力でで続けてきた」
旨、賞の成り立ちを紹介。
続いて栖原曉さんから
「昨年は朝日新聞で紹介されたり、雑誌『世界』で大賞作が連載されるれるなど話題になり、13ヶ国、80点の応募がありました。変わったところでは歌詞や短歌などの応募もありました。日本語による表現力のレベルは全体として着実に上がっていると感じられるが、構想がやや小さくまとまって、カシコクなってしまっているのではないのかと少し気になる。そんなわけで今回は大賞受賞には至らなかったが再チャンレンジへの激励の意味を込めて入賞作品を4点を選んだ」
と選考経過の報告があった。(写真左)
選考委員を代表して、辻井喬さんから講評。
「全体の印象としては日本語のレベルが上がってきている。全作品を2回以上は読みましたが、日本語力と文学性の両観点から採点したが両方とも優れているという作品はなかなか見あたらなかったが、なかなか揃うのは難しい。大賞受賞がなかったことおは余り悲観していなし よく続いているなと思います。留学生でなければぶつからない日本の現実に対して新しい視点があったり、選考しているようで選考されているという、いわば月謝を払わず教えてもらっているようなもので審査する方が得をしていると思って感謝しています」
とあたたかく激励。(写真右)
呉智英さんは、「自分は辛口である」と前置きのあと「正直言ってまだまだ。自国の文章に翻訳して、自国の人々を感動させ、ベストセラーになりうる作品を今後は期待したい」と厳しい感想も述べられた。(写真左)
乾杯の音頭で宮崎学さんがあいさつ。「日本人の留学生が外国で果たしてこの水準まで書けるかなと考えるとたぶん、無理であろう。ボヤン氏の作品の衝撃でこの会は始まったが、まだまだ続ける意義はあると思う」と留学生の日本語水準と表現力を高く評価する発言があった。(写真右)
留学生も楽しみにしていた立食パーティ。歓談の輪があちこちに。日本語で書くという高いハードルを越えてきただけに留学生は直接審査員からアドバイスを聞こうという熱心な姿勢の人も多い。お酒も入り、すっかり和んできた留学生たちと審査員の呉智英さんによるミニ講座が展開された(写真右)。
さまざまな副賞もいまや名物。カシオの発売直前の新型電子辞書が全員に贈られ(写真右)、本の重さと賞の重さをずっしり感じたことだろう。
水沢観音の饅頭(写真下中)、埼玉在住のイラストレーターの作品(写真下左)や、なぜかアラビア半島の地下水から作ったミネラルウォーターなど檸檬屋の常連客らからユニークな賞品が次々と贈られた。(写真下)
毎年大賞のトロフィーを製作してきた金工作家北村鐘さんも檸檬屋の古参客で「審査委員もほんとに一所懸命審査されているので、自費ででも参加する」と、ご自身も毎年留学生に会えるのを楽しみにしている。「来年以降も賞あるかぎりトロフィー作りますよ」とのことだった(写真下右)。
受賞を機に支援者と留学生同士の交流が年々深まっている。これまで2度、受賞者全員を沖縄旅行に招待という企画を続けてきたフィールドワークグループ「アジアを歩く石敢當」主宰の新川美千代さんは「通訳なしでいろんな視点で話し合えるので私たちも楽しみです。去年は全員が急遽、ホームステイするほど地元の人々と仲良くなった」と、今回も大いに期待を膨らませている(写真左)。
昨年の大賞受賞者でイラン人のシリン ネザマフィさんは、仕事先の大阪から携帯電話で「文学賞のおかげでいろいろ楽しい夢を見させていただきました」と参加できなかったことを残念がり、今年の「後輩」にお祝いの言葉を贈っていた(写真右)。
独逸留学から帰国したばかりの昨年入賞者、チョウ シキンさんも副賞の飛び入り授与者になって「後輩」を祝った(写真左)。こうした光景に惜しくも入賞をのがした陳夢さんは「こんなにいっぱいもらえるなら次は必ず狙います」との言葉に会場は爆笑。(写真右)
会も5回目とあって、裏方スタッフの紹介も。その一人・事務局の大久保さん(写真左下・左)。
「光栄にも一番最初に原稿を見ているのは私です」。
なんでも〆切が過ぎてから送られてくることもあって、「こんなおおらかさもこの賞らしいところです。」と。
また次回第6回作品募集ポスターが紹介された。みのりかんべさんがデザイン。出席者からも分かりやすいと早くも評判。(写真左・右 ─ ポスターデザインについて説明するみのりかんべさん)
留学生にとっては10月末の〆切に向けて今日からチャレンジが開始された日となった。(写真下 ─ 受賞の喜びを語る留学生たち)
この日ばかりは入りきれない人数で階段にまであふれた。一人一人自己紹介。会を振り返って紙芝居風に紹介するスタッフや、にわか相談役になったりと深夜遅くまで賑わい、ついに留学生のなかには檸檬屋で夜明かし組もでたとか。
(フリーライター・ししろう 写真: 冨安 大輔 )
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